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役員報酬の決め方|事業年度開始 3 ヶ月以内ルールと税務リスク

法人税法 第 34 条の定期同額給与原則。役員報酬を事業年度開始から 3 ヶ月以内に決めなければならない理由、変更時の税務リスク、マイクロ法人の最適水準を解説。

公開: 2026/5/5本記事には広告 (PR) を含みます

この記事で分かること

  • 法人税法 第 34 条 の定期同額給与原則と税務リスク
  • 役員報酬決定の 3 ヶ月以内ルール とその根拠
  • 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の 使い分け
  • 社会保険・所得税・法人税の トータル最適水準 の算定方法
  • マイクロ法人で頻出の 月 8 万円スキーム(社会保険最適化型)
  • 失敗例 4 つ(期中変更で損金不算入・社保負担過大・配当との混同・議事録未整備)
  • FAQ:賞与の扱い・退職金・家族役員報酬・無報酬の可否 など

当記事は法人税法・所得税法・健康保険法・厚生年金保険法・各通達を参照したリサーチベースの解説です。実際の税務判断は税理士にご相談ください。

役員報酬の特殊性

役員報酬は、サラリーマンの給与とは異なる 税務上の制約 が課されています。これは「会社の利益操作(役員報酬で利益を圧縮し法人税を回避)」を防ぐためです。

損金算入の 3 類型

法人税法 第 34 条第 1 項は、損金算入できる役員給与を以下の 3 類型に限定しています。

内国法人がその役員に対して支給する給与(中略)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。 一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(定期同額給与) 二 その役員の職務につき所定の時期に、確定額を支給する旨の定め(中略)に基づいて支給する給与(事前確定届出給与) 三 内国法人(中略)がその業務執行役員に対して支給する業績連動給与 (法人税法 第 34 条第 1 項)

つまり、これらに該当しない役員給与は 損金不算入 = 法人税の節税効果なし となります。

定期同額給与の原則

最もシンプルかつ多用される類型が 定期同額給与。「毎月同じ日に同じ金額を支給する」が要件です。

3 ヶ月以内ルール

役員報酬額を変更できるタイミングは、法人税法施行令 第 69 条で以下のように制限されています。

変更可能なタイミング期限
事業年度開始の日から 3 ヶ月以内4 月決算法人なら 5 月〜7 月の株主総会で決定
臨時改定事由(職制上の地位変更・職務内容の重大な変更)該当事由発生時
業績悪化改定事由(経営状態の著しい悪化)著しい悪化が認められた時

事業年度の途中で「もう少し報酬を増やそう」と上げると、増額分が損金不算入 となります。これが最大の落とし穴。

期中増減のリスク具体例

事業年度開始時に月 50 万円で設定 → 業績好調なので 7 月から月 70 万円に増額した場合:

  • 4 月〜6 月:月 50 万円(損金算入 OK)
  • 7 月〜翌年 3 月:月 70 万円
    • うち月 50 万円:損金算入 OK
    • うち月 20 万円 × 9 ヶ月 = 180 万円:損金不算入(法人税で約 60 万円の追加納税)

逆に 減額 も同様の扱いを受けるため、慎重な事業計画が必須。

事前確定届出給与

「役員賞与」を出したい場合に使うのが 事前確定届出給与

届出の流れ

  1. 株主総会で「○月○日に金××円を役員賞与として支給する」と決議
  2. 株主総会の決議から 1 ヶ月以内 or 事業年度開始から 4 ヶ月以内 のいずれか早い方までに税務署へ届出
  3. 届出どおりの 日付・金額 で支給 → 損金算入 OK

届出と 1 円でも違う金額を払うと、全額損金不算入(一部損金不算入ではない点に注意)。

用途

  • 役員に賞与を出したい中堅企業
  • 季節変動の大きい事業で利益確定後に役員へ還元したい場合
  • 退職前の最終事業年度で役員退任慰労金を確定させたい場合

マイクロ法人ではあまり使われませんが、複数役員を抱える法人では有用な制度。

業績連動給与

上場企業向けの制度。利益・株価などの 客観的指標 と連動する役員報酬で、有価証券報告書での開示など要件が厳しく、マイクロ法人では実質使えない

役員報酬の社会保険・税負担シミュレーション

役員報酬は、所得税・住民税・社会保険料・法人税が 複雑に絡み合う。トータルで最適化する視点が必要です。

月額別の年間負担シミュレーション(マイクロ法人 1 人代表)

東京都・40 歳未満・標準報酬月額ベース(協会けんぽ)の概算。

月額役員報酬年収社保(個人+会社)所得税+住民税法人税の節税効果手取り感(個人)
月 0 円0 円国保+国年(別途)0 円0 円個人収入なし
月 80,000 円96 万円約 33 万円約 0 円(基礎控除内)約 27 万円約 75 万円
月 200,000 円240 万円約 72 万円約 5 万円約 67 万円約 200 万円
月 500,000 円600 万円約 180 万円約 30 万円約 168 万円約 480 万円
月 1,000,000 円1,200 万円約 320 万円約 150 万円約 336 万円約 870 万円

※ あくまで概算。実際は扶養家族の有無・自治体・年度により大きく変動します。

マイクロ法人の月 8 万円スキーム

副業マイクロ法人で頻出するのが「月 80,000 円」設定。これには以下の意図があります。

  • 標準報酬月額 88,000 円(協会けんぽの最下位等級)にハマり、社保負担を最小化
  • 給与所得控除(55 万円)+ 基礎控除(48 万円)= 103 万円の壁内に収まり、所得税ゼロ
  • 個人事業主側で大半の収入を得つつ、社保は法人で加入(国保より大幅に安い

健康保険法 第 40 条・厚生年金保険法 第 20 条に基づく標準報酬月額の最下位区分を活用するスキームで、本業給与を別に得ている人 / 個人事業を併用する人の最適化策として知られています。

ただし、役員報酬が労務実態と著しく乖離 していると、税務調査で「給与の付け替え」を疑われるリスクあり。事業実態に合わせて設定する必要があります。

議事録の整備

役員報酬は株主総会で決議し、議事録を整備します。

株主総会議事録の必須記載事項

  • 決議日(事業年度開始から 3 ヶ月以内)
  • 決議内容(年額総額 × 万円以内・各役員の額)
  • 出席株主・議決結果
  • 議長・議事録署名人の押印

会社法 第 361 条第 1 項により、取締役の報酬等は 株主総会の決議 で定める必要があります。マイクロ法人で代表者 1 名でも、株主総会議事録(または書面決議) を作成・保管すべきです。

税務調査では議事録の有無を必ず確認されるため、未作成は損金算入リスクとなります。

失敗例 4 つ

失敗 1: 期中増額で損金不算入 100 万円

業績好調を見て期中(7 月)に役員報酬を月 50 万円→月 80 万円に増額。期末申告で「7〜3 月の増額分 30 万円 × 9 ヶ月 = 270 万円」が損金不算入として法人税約 90 万円追徴。

対策: 役員報酬は 事業年度開始から 3 ヶ月以内 に決定し、その後は変更しない。業績連動で還元したい場合は、翌期の事業年度開始時に増額するか、事前確定届出給与 を活用。

失敗 2: 高額役員報酬で社保負担が増えすぎ

「節税のため」と月 100 万円に設定したら、健康保険・厚生年金の 会社負担分(同額) で年間約 160 万円。法人税の節税効果より社保負担増が上回り、トータルで損。

対策: 役員報酬は 法人税・所得税・社会保険料の総合計 で最適化。一般的にマイクロ法人では月 30〜50 万円、家族なし単身なら月 8 万円スキームが有利なケースも。

失敗 3: 配当と役員報酬を混同

「同じく株主だから」と剰余金の配当を役員報酬に混ぜて支給 → 配当は 損金不算入(法人税法第 22 条)であり、役員報酬の定期同額要件にも違反。二重で課税扱い。

対策: 配当(資本取引)と役員報酬(損益取引)は 別の支給 として分離。役員報酬は毎月定期同額、配当は決算後の株主総会決議で別途実行。

失敗 4: 議事録未整備で税務調査時に否認リスク

役員報酬を月 50 万円で支給するも、株主総会議事録を作成せず → 税務調査で「決議の事実が確認できない」として一部損金否認のリスク。

対策: マイクロ法人でも 必ず株主総会議事録を作成・保管。1 人会社でも書面決議書(株主全員が書面で同意した記録)を整備。会計ソフト(freee・マネーフォワード)には議事録テンプレが用意されている。

FAQ

Q1. 設立 1 期目の役員報酬はいつ決めるのですか?

A. 設立日(登記完了日)から 3 ヶ月以内 に決定。 1 期目特例として、設立から 3 ヶ月以内に開かれる 臨時株主総会または書面決議 で決定し、その日から定期同額支給を開始します。 たとえば 4 月 1 日設立なら 6 月 30 日までに決議。最初の支給は決議月の翌月から月末締めで支給するパターンが多い。

Q2. 役員報酬を 0 円にできますか?

A. 可能です。会社法上「無報酬」を禁ずる規定はなく、議事録に「無報酬とする」と明記すればよい。 代表者個人が別の収入源(本業給与・個人事業)を持つマイクロ法人では、初年度を無報酬で運営し、内部留保を貯める 戦略がよく取られます。 ただし社会保険には加入できないため、健康保険は 国民健康保険、年金は 国民年金 となります。

Q3. 家族(配偶者・子)を役員にして役員報酬を払えますか?

A. 可能ですが、税務上の注意があります。 法人税法 第 34 条第 2 項により、労務の対価として相当な金額 であれば損金算入 OK。 しかし、勤務実態がなく形式的に役員にしているだけだと 「不相当に高額」として否認 されるリスク(同条 第 4 項・「過大役員給与の損金不算入」)。 配偶者を非常勤監査役として月 5〜10 万円、子を非常勤取締役として月 3〜5 万円といった、勤務実態と整合する金額 に抑えるのが定石。

Q4. 役員賞与は損金算入できますか?

A. 事前確定届出給与の届出がある場合のみ可能。 届出をしていない役員賞与は 全額損金不算入 で、法人税の節税効果なし。 届出済みでも、届出と異なる金額・日付で支給すると 全額不算入(一部ではない)。 マイクロ法人では事前確定届出給与は使われづらく、定期同額給与で月割で支給するのが一般的。

Q5. 役員報酬を毎月支払わないと損金不算入ですか?

A. 支払いの実態があれば毎月の現金支給は不要。 役員報酬は「未払金」として計上することも可能(仕訳:役員報酬 / 未払金)。 ただし長期間未払の場合は 「実質的に支給していない」 と税務調査で否認されるリスクがあるため、決算月までには支払うのが安全。 キャッシュフロー悪化時の役員報酬未払は、3 ヶ月以内が許容範囲とされる場合が多い。

Q6. 役員退職金の扱いは?

A. 損金算入は可能ですが「不相当に高額」と否認リスク。 役員退職金は法人税法上 「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」 で算定し、適正額を超えると損金否認。 功績倍率の目安:代表取締役 2.0〜3.0 倍、取締役 1.0〜2.0 倍、監査役 1.0〜1.5 倍(裁判例で形成された相場)。 マイクロ法人廃業時に 退職金として全額取り崩し → 退職所得控除で大幅節税 という出口戦略がある。

Q7. 役員報酬の振込日を変えられますか?

A. 同じ日付(または同じ「月末から○営業日前」など)で固定 が原則。 たとえば「毎月 25 日支給」を 1 ヶ月だけ「30 日支給」に変えると、形式上は定期同額の要件を満たさなくなるリスク。 銀行休業日でずれる程度は許容範囲ですが、頻繁な変更は避ける。 給与計算ソフト(freee 人事労務・マネーフォワードクラウド給与)で 自動振込 しておくのが運用上もっとも安全。

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まとめ

  • 役員報酬は 法人税法 第 34 条 で 3 類型(定期同額・事前確定届出・業績連動)に限定
  • 期中増減した分は 損金不算入 となり法人税負担増
  • 変更可能タイミングは 事業年度開始から 3 ヶ月以内
  • マイクロ法人では 月 8 万円スキーム(標準報酬月額最下位)が社保最適化として人気
  • 過大役員給与・家族役員報酬は 労務実態との整合 が必須
  • 議事録(株主総会議事録)の整備で税務調査リスクを最小化

参考資料(公式情報)