まず3分で全体像
- 法人化したら社会保険加入が 強制 になる根拠(健保法 3 条 / 厚年法 6 条)
- 健康保険・厚生年金の加入手続き(年金事務所への提出書類 全 5 種類)
- 役員 1 人法人でも必要な手続きの全体像と提出期限
- 保険料が決まる仕組み(標準報酬月額の等級表)と負担最小化の考え方
- マイクロ法人スキーム(役員報酬月 8 万円・社保最低水準)の実装方法
- 失敗例 4 つ(5 日以内届出忘れ・標準報酬月額誤算定・配偶者扶養申請ミス・賞与支払届忘れ)
- FAQ:個人事業との二刀流・退職金準備・育休制度・社会保険料の損金算入 など
当記事は日本年金機構・全国健康保険協会(協会けんぽ)・厚生労働省の公開情報を参照したリサーチベース解説です。具体的な手続きは社労士または年金事務所へご確認ください。
法人は人数に関係なく社保強制加入
健康保険法・厚生年金保険法上、法人は従業員数に関係なく強制適用事業所。 役員 1 人だけの法人でも、報酬を受け取る限り 健康保険 + 厚生年金 の加入が必須。
健康保険法 第 3 条の原文
この法律において「適用事業所」とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。 一 次に掲げる事業の事業所であつて、常時五人以上の従業員を使用するもの 二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であつて、常時従業員を使用するもの
法人事業所は 第 2 号 に該当し、人数要件なしで強制適用です。
厚生年金保険法 第 6 条も同様
次の各号のいずれかに該当する事業所、事務所…は、第二条の二の規定によつて指定をされた日から、…適用事業所とする。 二 …法人の事業所…であつて、常時従業員を使用するもの
つまり、「マイクロ法人だから社保不要」は誤り。 唯一の例外は 役員報酬がゼロ の場合(その場合も健康保険は別途国保で対応する必要あり)。
- 1健康保険・厚生年金保険 新規適用届設立後5日以内に管轄の年金事務所へ。登記簿謄本・法人番号指定通知書を添付
- 2被保険者資格取得届役員/従業員それぞれ1枚。報酬月額(標準報酬月額の根拠)を記載
- 3健康保険 被扶養者(異動)届配偶者・子供を扶養に入れる場合。年収130万円未満の証明が必要
- 4雇用保険・労災保険(従業員雇用時のみ)従業員を1人でも雇ったら労基署・ハローワークへ
必要な手続きと書類
設立後 5 日以内に提出するもの
1. 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
提出先:管轄の 年金事務所 添付書類:
- 法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書、原本またはコピー)
- 法人番号指定通知書のコピー(マイナンバーカードでも可)
- 賃貸借契約書(事業所所在地が登記と異なる場合)
2. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
役員 / 従業員それぞれ 1 枚ずつ。 記載内容:
- 氏名 / 生年月日 / マイナンバー
- 報酬月額(標準報酬月額の決定根拠)
- 資格取得年月日(法人設立日 or 入社日)
3. 健康保険 被扶養者(異動)届
配偶者・子供などを扶養に入れる場合に提出。
- 続柄を証明する書類(戸籍謄本 / 住民票)
- 収入要件を証明する書類(年収 130 万円未満の証明)
雇用保険・労災保険(従業員雇用時)
役員のみの法人では不要。 従業員を 1 人でも雇用したら 以下を労働基準監督署 / ハローワークへ:
- 労働保険関係成立届
- 概算保険料申告書
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
標準報酬月額と保険料の決まり方
標準報酬月額とは
社会保険料を計算する基準額。実際の給与をそのまま使うのではなく、決められた等級表に当てはめて算出。 健康保険:50 等級(5.8 万円〜139 万円)、厚生年金:32 等級(8.8 万円〜65 万円)。
役員報酬での決定タイミング
- 設立時:第 1 期の役員報酬決定時に標準報酬月額が決まる
- 定時決定(算定基礎届):毎年 4〜6 月の平均報酬で 9 月以降の標準報酬月額を決定
- 随時改定(月額変更届):役員報酬を 2 等級以上変更した場合
役員報酬の「定期同額給与」原則
法人税法 第 34 条により、役員報酬は 事業年度の途中で変更不可(事業年度開始から 3 ヶ月以内のみ可)。 これに違反すると、超過分が 損金不算入(法人税の計算上、経費にできない)。 社保最適化を目的とした役員報酬調整は、事業年度開始時 にしか実施できません。
標準報酬月額別の保険料目安(協会けんぽ・東京・2026 年・40 歳未満)
| 標準報酬月額 | 健保 + 厚年(労使合計) | 個人負担 |
|---|---|---|
| 58,000 円(最低等級) | 約 17,000 円 | 約 8,500 円 |
| 88,000 円(厚年最低) | 約 25,000 円 | 約 12,500 円 |
| 134,000 円 | 約 38,000 円 | 約 19,000 円 |
| 220,000 円 | 約 63,000 円 | 約 31,500 円 |
| 410,000 円 | 約 117,000 円 | 約 58,500 円 |
| 650,000 円 | 約 185,000 円 | 約 92,500 円 |
| 980,000 円 | 約 270,000 円 | 約 135,000 円 |
労使折半とはいえ、マイクロ法人では 労使ともに代表者が支払う ので実質全額負担。
40 歳以上は介護保険料(約 1.6%)が加算されます。
保険料負担を最小化する考え方
役員報酬を低く設定する「マイクロ法人スキーム」
- 役員報酬を 月 4.5〜10 万円 に抑える
- 標準報酬月額は最低等級(88,000 円)に近づく
- 個人 + 法人合わせて 月 25,000 円程度 に圧縮(年 30 万円)
このスキームのトレードオフ
- 厚生年金額が将来低くなる(最低水準でも国民年金より厚い)
- 個人の所得税・住民税は減る
- 法人の利益が大きくなり法人税が増える
- 法人留保 → 退職金で取り出す設計が必要
数値シミュレーション(売上 800 万円 / 経費 200 万円)
| 形態 | 個人手取り | 社保料 |
|---|---|---|
| 個人事業継続 | 約 380 万円 | 国保 + 国民年金 約 75 万円 |
| マイクロ法人 + 役員報酬月 8 万 | 約 400 万円 | 協会けんぽ + 厚年 約 30 万円 |
社保料だけで 年 45 万円の差。法人維持費 30〜50 万円を上回るため、社保最適化目的でマイクロ法人化が成立。
配偶者を被扶養者にする
- 配偶者の年収を 130 万円未満に抑える
- 配偶者は社会保険料負担なしで 健康保険 + 国民年金第 3 号被保険者 の扱い
- 配偶者の年金保険料が ゼロ になる(年 20 万円相当の国民年金保険料を払わなくて済む)
- 世帯全体の社会保険料を圧縮
個人事業を併用する
- 法人で社保最低限を確保
- 別事業を個人事業(青色申告)で運営
- 「法人 + 個人事業」二刀流で所得分散
ただし税務署 / 社保事務所からの目線で 業務実態の整合性 が必須。 税理士 / 社労士に事前相談しないと否認リスク。
加入後の継続的な手続き
毎年必要
- 算定基礎届(毎年 7 月初旬まで):4〜6 月の報酬平均で標準報酬月額を見直し
- 賞与支払届:賞与を支払った都度(事前確定届出給与の届出も)
必要時
- 月額変更届:役員報酬を 2 等級以上変更した場合
- 被扶養者異動届:配偶者の収入変動・出産・離婚など
- 資格喪失届:退任・退職時
毎月必要
- 保険料の納付(口座振替が便利)
- 給与計算ソフトでの保険料控除
設立 1〜2 年目の社労士活用
社会保険手続きは初年度に詰まりやすい。
- 設立スポット契約:3〜10 万円
- 顧問契約(年金事務所対応含む):月 1〜2 万円
設立直後に手続きを社労士に任せて、運用ルートが固まったら自社で回すパターンが多い。
ありがちな失敗例
失敗 1: 設立 5 日以内届出忘れで遡及加入手続きと延滞金
設立直後の繁忙で 5 日以内の新規適用届 を提出し忘れ、3 ヶ月後に年金事務所から指摘 → 遡って加入手続き + 過去 3 ヶ月分の保険料一括納付 + 延滞金。
対策:設立完了後すぐに年金事務所に連絡。社労士スポット契約で初年度は丸投げが安全。
失敗 2: 役員報酬の標準報酬月額を低く誤算定
役員報酬月 25 万円なのに、標準報酬月額を 22 万円で届出 → 1 年後の調査で誤りが発覚 → 過去 1 年分の保険料追加納付(約 30 万円)+ 延滞税。
対策:役員報酬の 月額(手当・通勤費含む) で標準報酬月額を判定。賞与は別建て。社労士チェック推奨。
失敗 3: 配偶者の被扶養者申請で年収要件超過
配偶者の被扶養者申請時に「年収 100 万円」と記載 → 実際は副業収入含めて 150 万円超で要件超過 → 被扶養者資格取消 + 過去分の医療費自己負担に変更。
対策:年収 130 万円未満要件は 副業・年金・失業給付・配当金等を全て合算 した数字。グレーゾーンは社労士に確認。
失敗 4: 賞与支払届の提出忘れで年金記録に反映されず
役員賞与を支払ったが 賞与支払届 を提出し忘れ → 年金記録に反映されず将来の年金額が下がる。3 年後に発覚して遡及届出。
対策:賞与を支払う前に 事前確定届出給与の届出(法人税法 34 条)と 賞与支払届(厚年法)の両方を準備。給与計算ソフトのチェックリスト活用。
FAQ
Q1. 役員報酬ゼロで社保未加入はできますか?
A. 役員報酬ゼロなら社保加入義務なし(被保険者になる「報酬」がないため)。
- ただし健康保険は 国民健康保険 に加入が必要
- 国民年金は引き続き加入義務あり
- 役員報酬ゼロは厚生年金加入のメリットを享受できない
- 配偶者を社保扶養にもできない
完全な無報酬法人は社保最適化目的では非推奨です。
Q2. 個人事業との二刀流で社保はどうなりますか?
A. 法人で社保加入、個人事業はそのまま継続 が定石スキーム。
- 法人で健康保険・厚生年金に加入
- 個人事業の所得は社保料計算の対象外(標準報酬月額は法人の役員報酬のみで決定)
- 個人事業の所得が大きくても社保料は変わらない
Q3. マイクロ法人で退職金準備はどうしますか?
A. 小規模企業共済 + 経営セーフティ共済 の併用。
- 小規模企業共済:月 1,000〜70,000 円、全額所得控除(個人)
- 経営セーフティ共済:月 5,000〜200,000 円、全額損金算入(法人)
- 役員退職金規程を作成し、退職時に一括給付(退職所得控除で大幅節税)
Q4. 出産・育児休業中の社保料はどうなりますか?
A. 産休・育休中は社保料が免除 されます(健保法 159 条 / 厚年法 81 条の 2)。
- 産前産後休業(産前 6 週・産後 8 週):保険料免除
- 育児休業(最長子供 3 歳まで):保険料免除
- 免除中も健康保険は給付継続、年金記録も継続加入扱い
マイクロ法人代表者でも適用される制度です。
Q5. 社会保険料は法人税法上の損金になりますか?
A. 会社負担分は全額損金算入(法人税法上の費用として計上)。 個人負担分は給与から天引きされるが、所得税の社会保険料控除 で全額所得控除になります(所得税法 第 74 条)。 税負担を減らす効果があります。
Q6. 70 歳超で役員継続する場合の社保は?
A. 健康保険は 75 歳まで加入継続、厚生年金は 70 歳で被保険者資格喪失(70 歳以降は保険料負担なし、ただし年金受給可能)。 70 歳超の役員は健康保険のみ加入の状態になります。 75 歳超は後期高齢者医療制度に強制移行。
Q7. 社保加入後に役員報酬を下げて等級変更したい場合は?
A. 2 等級以上の変動 で 月額変更届 を提出。
- 事業年度開始から 3 ヶ月以内なら役員報酬変更可(法人税法 34 条)
- それ以降の変更は損金不算入リスク
- 月額変更届の効力は変動から 4 ヶ月目から
定期的に役員報酬を見直す場合は、事業年度開始時 に決定するのが安全。
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- 法人化シミュレーター:個別の社保料試算
- マイクロ法人と中小企業の違い:マイクロ法人の定義
要点の振り返り
- 法人は 役員 1 人でも社保加入強制(健保法 3 条 / 厚年法 6 条)
- 設立 5 日以内に 新規適用届 + 資格取得届 を年金事務所へ
- 保険料は 標準報酬月額の等級表 で決まる(健保 50 等級 / 厚年 32 等級)
- 役員報酬は 定期同額給与原則(法人税法 34 条)で事業年度途中変更不可
- マイクロ法人スキームで 月 25,000 円 まで圧縮可能(年 45 万円の節約)
- 失敗例 4 つ(届出忘れ・標準報酬誤算・扶養超過・賞与届)はすべて予防可能
- 設立初年度は社労士スポット利用が安全