この記事で分かること
- フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、2024 年 11 月 1 日施行)の 全体像
- 保護対象「特定受託事業者」と発注者「特定業務委託事業者」の 定義と要件
- 義務 7 項目(取引条件の書面明示・60 日支払・継続業務での事前説明・解除予告・育児介護配慮・募集情報の的確化・ハラスメント防止)
- 違反時の調査・指導・命令フロー(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)
- 失敗例 4 つ(書面明示漏れ / 60 日超過 / ハラスメント / 解除予告漏れ)
- 関連法令(下請法・独占禁止法・労働関係法令)との 棲み分け
- FAQ:フリーランス側の権利行使 / 既存契約への適用 / 法人化との関係 など
当記事は内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の公開資料を参照したリサーチベース解説です。具体的な紛争対応は弁護士・公正取引委員会窓口へご相談ください。
1. 法律の全体像
正式名称と施行
- 正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和 5 年法律第 25 号)
- 通称:フリーランス保護新法 / フリーランス・事業者間取引適正化等法 / フリーランス新法
- 公布:2023 年(令和 5 年)5 月 12 日
- 施行:2024 年(令和 6 年)11 月 1 日
立法の背景
従来、フリーランスを保護する法律は次の 2 系統に分かれていました。
- 下請法(下請代金支払遅延等防止法):資本金要件があり、小規模発注者からの保護が薄い
- 独占禁止法:優越的地位の濫用は射程に入るが、立証コストが高い
フリーランス保護新法は 資本金要件を撤廃 し、発注者が事業者である限り対象とすることで、保護範囲を広げています。
二系統の規制
法律は次の 2 系統で構成されます。
| 系統 | 規制内容 | 所管省庁 |
|---|---|---|
| 取引適正化(第 3〜10 条) | 書面明示・60 日支払・解除予告等 | 公正取引委員会・中小企業庁 |
| 就業環境整備(第 12〜18 条) | 募集情報の的確化・育児介護配慮・ハラスメント防止 | 厚生労働省 |
2. 保護対象と発注者の定義
特定受託事業者(保護対象)
第 2 条 1 項で次のように定義されます。
- 業務委託の 相手方 である事業者で
- 個人で 従業員を使用しない 者、または
- 法人で 代表者以外に従業員がおらず役員がいない もの
つまり、次のいずれも特定受託事業者として保護対象です。
- 個人事業主(一人)
- 一人会社(代表者 1 名のみの法人)
逆に、従業員を 1 人でも雇用している場合は対象外となります。
特定業務委託事業者(発注者)
第 2 条 6 項で次のように定義されます。
- 特定受託事業者に業務委託をする事業者で
- 個人で 従業員を使用する 者、または
- 法人で 2 人以上の役員がいるか従業員を使用する もの
つまり、組織として活動しているすべての事業者が発注側として規制対象になります。
業務委託事業者(軽い義務のみ)
特定業務委託事業者の要件を満たさない、いわゆる個人事業主同士の発注関係は 業務委託事業者 として軽い義務(書面明示のみ)が課されます(第 3 条)。
3. 取引適正化の 4 義務(公取委・中小企業庁所管)
義務 1: 取引条件の書面明示(第 3 条)
業務委託をした場合、ただちに次の事項を書面または電磁的方法で明示する義務があります。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- その他公正取引委員会規則で定める事項
口頭発注で「あとで条件決めましょう」は違法。メール・チャット・電子契約も電磁的方法として認められる ため、紙の契約書必須ではありません。
義務 2: 報酬の 60 日以内支払(第 4 条)
- 給付を受領した日から 60 日以内 に支払期日を定めて支払う義務
- 「月末締め翌月末払い」「20 日締め翌月末払い」等の慣行的な支払サイトのうち、給付受領から 60 日を超えるものは違法
- 再委託の場合、元委託者からの支払期日に応じた特例あり(第 4 条 3 項)
下請法の 60 日と同じ規律が、資本金要件なしで全発注者に適用されます。
義務 3: 継続業務での事前説明(第 5 条)
1 ヶ月以上 の業務委託(継続的業務)について、発注者は次の禁止行為を行ってはいけません。
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| 受領拒否 | 注文と異なる物品の受領拒否を含む |
| 報酬減額 | 発注後の一方的な減額 |
| 返品 | 受領後の不当な返品 |
| 買いたたき | 通常対価より著しく低い報酬 |
| 物・サービス購入強制 | 発注者指定品の購入強要 |
| 不当な経済上の利益提供要請 | 協賛金・役務の無償提供強要 |
| 不当な給付内容変更・やり直し | 一方的な仕様変更 |
下請法 第 4 条と同様の規律です。
義務 4: 解除予告 30 日(第 16 条)
6 ヶ月以上 の継続的業務委託を中途解約する場合、または更新しない場合、発注者は 30 日前まで に予告する義務があります。
例外:
- 災害等のやむを得ない事由
- 特定受託事業者側に重大な義務違反がある場合
- 短期業務(6 ヶ月未満)
予告なしの解除には損害賠償請求の根拠となります。
4. 就業環境整備の 3 義務(厚労省所管)
義務 5: 募集情報の的確化(第 12 条)
求人広告・案件募集ページで、虚偽または誤解を招く表示をしてはいけない義務。最新の情報に保つ必要もあります。クラウドソーシングプラットフォームでの 報酬条件・業務内容の正確な記載 が義務化されました。
義務 6: 育児介護配慮(第 13 条)
6 ヶ月以上 の継続業務において、特定受託事業者からの妊娠・出産・育児・介護を理由とする就業時間や場所の調整申し出に対し、必要な配慮を行う義務があります(必要な配慮義務)。
義務 7: ハラスメント防止(第 14 条)
業務委託の場面で セクハラ・パワハラ・マタハラ を防止する措置を講じる義務。具体的には次の措置が求められます。
- ハラスメント防止方針の明確化と周知・啓発
- 相談窓口の設置
- 事案発生時の迅速・適切な対応
- 不利益取扱い禁止
労働者を雇用していない場合でも、フリーランス相手の業務委託で発生したハラスメントには発注者の防止責任が及びます。
5. 違反時の対応フロー
通報・申告先
- 取引適正化系(書面明示・60 日支払・解除予告等):公正取引委員会、中小企業庁
- 就業環境系(募集・育児介護・ハラスメント):厚生労働省、都道府県労働局
特定受託事業者は 匿名でも通報可能。発注者は通報を理由とする不利益取扱い(取引停止等)を禁止されています(第 6 条 4 項、第 17 条)。
行政調査・指導・勧告・命令
- 主務大臣(公取委 / 中小企業庁長官 / 厚労大臣)が違反疑いを認めると 報告徴収・立入検査(第 9 条、第 18 条)
- 違反が認められると 指導・助言
- 改善されないと 勧告
- 勧告に従わないと 命令 、命令違反は 50 万円以下の罰金(第 24 条)
罰則
- 報告徴収・立入検査の拒否:50 万円以下の罰金(第 24 条)
- 命令違反:50 万円以下の罰金(第 24 条)
- 法人両罰規定あり(第 25 条)
6. 既存法令との棲み分け
| 法令 | フリーランス保護新法との関係 |
|---|---|
| 下請法(下請代金支払遅延等防止法) | 資本金要件で対象外だった発注者を新法でカバー。両方適用される場合は両方遵守が必要 |
| 独占禁止法(優越的地位の濫用) | 引き続き適用。新法は予防的・行政的な規律 |
| 労働基準法 | 雇用関係でないフリーランスは引き続き労基法の対象外。ただし「労働者性」が認められる場合は労基法が優先 |
| 民法(請負・委任) | 契約解除・損害賠償の根拠として併用 |
| 男女雇用機会均等法・育児介護休業法 | 雇用関係前提のため引き続きフリーランスは対象外。新法 第 13 条が代替 |
7. 失敗例 4 つ
失敗例 1: 口頭発注で書面明示せず指導案件に
長年の付き合いがある発注者に「いつものやつ、来月までで」と口頭発注 → 報酬額・納期が曖昧で、後から「想定より低い金額しか払わない」と言われたフリーランスが公取委に通報。発注者は書面明示義務違反で指導処分。
対策: メール・チャット・電子契約で 業務内容・報酬・支払期日 の 3 点は最低限明文化。発注を受ける側もこの 3 点が書面で来ていることを確認。
失敗例 2: 月末締め翌々月末払いで 60 日超過
「月末締め翌々月末払い」の慣行で支払 → 月初に納品したものが 60 日以上経ってから支払われる構造。中小企業庁の調査で 60 日超過と認定、勧告。
対策: 検収・受領日基準で 60 日以内支払を確認。支払サイトを「月末締め翌月末払い」「20 日締め翌月末払い」等の 60 日以内に固定。
失敗例 3: ハラスメント防止措置を講じず労働局指導
業務委託先のフリーランスに対し、発注者の社員が不適切な発言・態度を継続 → 当該フリーランスが労働局に相談、ハラスメント防止措置の不備で指導処分。
対策: フリーランスを業務委託で受け入れる場合も、社内のハラスメント防止規程に 業務委託先も対象 であることを明記。相談窓口を周知。
失敗例 4: 1 年契約を予告なしで打ち切り
1 年契約のシステム開発委託を、発注者の都合で 9 ヶ月時点に予告 1 週間で打ち切り → 30 日前予告義務違反、フリーランスから損害賠償請求 + 公取委通報。
対策: 6 ヶ月以上の業務委託は 30 日前予告 の事実上の最低ライン。やむを得ない事由(重大な義務違反等)の証拠化を平時から行う。
8. フリーランス側の権利行使
自己防衛のチェックリスト
新規発注を受ける時点で次のチェックを行うのが現実的です。
- 業務内容・報酬・支払期日が 書面または電磁的方法 で明示されているか
- 支払期日が 受領から 60 日以内 か
- 6 ヶ月以上の継続業務であれば、契約解除条件 が事前に説明されているか
- 募集情報の内容と契約条件にズレがないか
- ハラスメント発生時の相談窓口が示されているか
通報・相談窓口
- 公正取引委員会:電話・メール・郵送で通報可能。匿名可
- 中小企業庁:「下請かけこみ寺」が新法の相談も受付
- 都道府県労働局:就業環境系の相談
- フリーランス・トラブル 110 番(厚労省委託):弁護士による無料相談
匿名通報した上で実名通報切替も可能なので、まずは匿名で照会するのが現実的です。
9. 法人化との関係
一人会社(代表者 1 名のみ・従業員なし)は 特定受託事業者 に含まれるため、法人化しても新法の保護対象から外れません(内閣官房・公取委 Q&A で明確化)。
逆に、自分が外注を出す立場(特定業務委託事業者)になった場合は、上記 7 義務すべてが課されます。法人化して人を使うようになる前に、この義務を確認しておくのが安全です。
FAQ
Q1. 既存の業務委託契約にも適用される?
A. 適用されます。施行日(2024 年 11 月 1 日)以降の発注分から義務対象。継続契約の場合、施行日以降の発注について書面明示・60 日支払等の義務が発生します。
Q2. 副業のフリーランスは保護対象?
A. 個人で従業員を使用していない限り、副業 / 専業を問わず特定受託事業者として保護対象になります。会社員が休日に受託しているケースも含まれます。
Q3. 海外の発注者から受託する場合は?
A. 適用関係は事案ごとの判断になりますが、日本国内で業務を行う特定受託事業者については、原則として日本法(フリーランス保護新法)の適用が問題になります。海外発注者との契約では、準拠法の確認と紛争解決手段(仲裁条項等)の整備が重要です。
Q4. プラットフォーム経由の案件は誰が義務を負う?
A. プラットフォーム自体が発注者となる場合(プラットフォーム名義の請求)はプラットフォームが、プラットフォームが仲介に過ぎない場合は実際の発注者(クライアント)が義務を負います。クラウドワークス等の利用規約改訂が進んでいます。
Q5. 60 日支払の起算日は?
A. 給付を受領した日(成果物の納品・サービス提供完了の日)が起算日です(第 4 条 1 項)。検収完了日ではない点に注意。発注者が「検収に時間がかかる」を理由に受領日を先送りしようとするケースがあります。
Q6. ハラスメント被害を受けたらどうする?
A. まず証拠を保存(メール・チャットのスクリーンショット・録音)。次に都道府県労働局またはフリーランス・トラブル 110 番に相談。発注者には防止措置義務があり、不利益取扱い禁止規定もあるため、通報を理由に取引を打ち切られた場合はさらなる違反として通報できます。
Q7. 発注者として規制対象になるのはどのタイミング?
A. 一人会社が初めて従業員を雇った時点、もしくは個人事業主が従業員を雇った時点で 特定業務委託事業者 に該当します。雇用 = 義務発生のラインを超えた認識を持つことが重要。
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まとめ
- 2024 年 11 月施行のフリーランス保護新法は、資本金要件を撤廃して発注者一般を規制対象に
- 特定受託事業者(一人事業者)と特定業務委託事業者(組織発注者)の二者間取引が対象
- 7 義務:書面明示・60 日支払・継続業務での禁止行為・解除予告・募集情報・育児介護配慮・ハラスメント防止
- 違反は公取委・中小企業庁・厚労省が調査、命令違反は 50 万円以下の罰金
- 一人会社(マイクロ法人含む)も特定受託事業者として保護対象
- 通報は匿名可、不利益取扱い禁止規定あり
- 発注側に回る場合は施行日以降のすべての業務委託で義務が発生