この記事で分かること
- 2019 年 7 月の法人保険通達改正 で何が変わったか(全損保険の終焉)
- 改正後の 損金算入ルール:解約返戻率に応じた損金算入割合の 4 区分
- マイクロ法人で使える保険商品の現状:長期平準定期 / 逓増定期 / 養老保険 / がん保険
- 解約返戻率 50% 以下なら全額損金 という現行ルールの実務的な使いどころ
- 養老保険の ハーフタックスプラン(1/2 損金)が現役の節税スキームである理由
- 解約返戻金の出口戦略:役員退職金との相殺、赤字期解約
本記事は法人税基本通達 9-3-5、9-3-5 の 2、9-3-4、所得税法 第 30 条、国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関する法令解釈通達」(2019 年 6 月 28 日)を参照したリサーチ解説です。具体的な保険商品選定・損金算入処理は税理士に確認してください。
法人保険による節税は、2019 年 7 月の通達改正以降「半分死んだ」が「完全には死んでいない」 が結論。全損保険(払った保険料が全額損金)はほぼ消滅したが、解約返戻率 50% 以下なら全額損金、養老保険のハーフタックスプランなど、マイクロ法人で使える実務スキームは残っている。
2019 年通達改正で何が変わったか
改正前の状況(〜2019 年 6 月)
2019 年 6 月までは、逓増定期保険 / 長期平準定期保険 / がん保険 などで、保険料の 全額損金 + 解約返戻率 80〜90% という事実上の「課税繰延スキーム」が乱発されていた。各保険会社が「節税保険」と銘打って法人向け販売を加速し、国税庁が問題視。
改正の中身
国税庁は 2019 年 6 月 28 日付で 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関する法令解釈通達 を発出(2019 年 7 月 8 日以後契約分から適用)。最高解約返戻率 に応じて損金算入割合を 4 段階に区分。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上割合 |
|---|---|---|
| 50% 以下 | なし | 全額損金 |
| 50% 超 70% 以下 | 保険期間の 40% | 40% を資産計上、60% 損金 |
| 70% 超 85% 以下 | 保険期間の 40% | 60% を資産計上、40% 損金 |
| 85% 超 | 解約返戻金が最大になる期間まで | 最高解約返戻率 × 90% を資産計上 |
これにより、「返戻率 80% で全額損金」のような従来型節税保険は 損金算入できる割合が大幅に減り、税の繰延効果が薄まった。
マイクロ法人で現実的に使える 3 パターン
パターン 1:返戻率 50% 以下の定期保険(全額損金)
最高解約返戻率が 50% 以下なら、改正後ルールでも 全額損金 が維持されている(基本通達 9-3-5)。
代表的な商品:
- 掛け捨て型の定期保険(10 年・20 年定期)
- 収入保障保険(遺族年金型)
- がん保険・医療保険(解約返戻金が低水準のもの)
返戻率が低いため「貯蓄」にはならないが、事業継続のための死亡保障・代表者の健康リスク対策としての位置付けで、節税効果はおまけ扱いになる。
計算例
月額保険料 5 万円(年 60 万円)、返戻率 30% の収入保障保険を 20 年契約。
- 年 60 万円が全額損金 → 実効税率 33% で 年 20 万円の節税
- 死亡時は保険金で会社に保障原資が入る(代表者の事業承継・退職金原資として活用)
パターン 2:養老保険のハーフタックスプラン(1/2 損金)
養老保険で 被保険者 = 役員・従業員、死亡保険金受取人 = 遺族、満期保険金受取人 = 法人 とする契約形態。法人税基本通達 9-3-4 により 保険料の 1/2 が損金、1/2 が資産計上 という処理が認められている。
適用要件
- 役員・従業員の全員加入 が原則(特定の役員のみは不可)
- 普遍的加入の趣旨が満たされていれば、職種・勤続年数で対象を絞っても OK
マイクロ法人で代表 1 人のみの場合、「全員加入」とはいえ実質代表 1 人の保険になるが、規程を整備して 役員退職金 + 弔慰金原資 の位置付けにしておけば適用可。
効果
- 半分は損金で毎期節税(実効税率 33% 想定)
- 半分は資産計上 → 解約時 or 満期時に解約返戻金 / 満期保険金として戻る
- 代表者死亡時は遺族に保険金、退職時は法人に満期金 → 退職金原資にスライド
パターン 3:逓増定期 / 長期平準定期(部分損金)
最高解約返戻率 50% 超 85% 以下の定期保険(逓増定期・長期平準定期)。
- 50% 超 70% 以下:保険料の 60% が損金、40% は資産計上
- 70% 超 85% 以下:保険料の 40% が損金、60% は資産計上
改正前と比べて節税効果は薄いが、役員退職金の原資積立 + 税の繰延 を両立できる。マイクロ法人の場合、解約タイミングを役員退任に合わせれば、解約返戻金(益金)と退職金(損金)を相殺できる。
出口戦略:解約返戻金は全額益金
ここが倒産防止共済と同じ落とし穴。保険を解約すると、解約返戻金は全額益金算入 され、何もしなければ法人税の課税所得が一気に膨らむ。
解約返戻金 − 資産計上残高 = 解約時の益金 or 損金
資産計上していた部分を差し引いた残額が課税対象。
出口戦略 3 パターン
1. 役員退職金と相殺(最有力)
代表退任のタイミングで解約 → 同期に役員退職金支給で相殺。個人側は退職所得控除 + 1/2 課税で軽課。マイクロ法人の 保険節税の王道出口 で、役員退職金の設計 とセットで設計する。
2. 赤字期に解約
事業転換や業績悪化で大きな赤字が出る期に解約 → 解約益と赤字を相殺。意図的に作れるものではないが、廃業前提なら有効。
3. 役員社宅・倒産防止共済と組み合わせ
役員社宅 や 倒産防止共済 と組み合わせ、課税所得を平準化しながら保険原資も並行積立。複数の節税装備を回すことで、出口の選択肢を増やす。
マイクロ法人の保険節税フレーム
- 代表者の事業保障 + 健康リスク対策 を最優先(返戻率 50% 以下の定期・がん保険)
- 役員退職金原資 として養老保険ハーフタックス(1/2 損金)または逓増定期(部分損金)
- 解約は役員退任と同期、退職金との相殺で個人側の優遇を最大化
- 単純な節税目的だけで返戻率 85% 超の保険に入るのは効果が薄い(資産計上 90% で損金算入分が少ない)
失敗例 3 つ
失敗例 1:2019 年改正前の知識で「全損保険」を探す
「保険料全額損金で返戻率 80%」のような商品は 2019 年 7 月以降の新規契約では存在しない。古い記事や営業マンの説明を鵜呑みにして契約すると、想定通りの節税効果が出ない。
失敗例 2:解約益の出口を考えず満期解約
養老保険・長期平準定期の満期 / 解約タイミングで 1,000 万円の解約返戻金が入ったが、退職金との相殺を計画せず → 全額益金で法人税が約 330 万円発生。「節税のつもりが繰延だけ」のパターン。
失敗例 3:代表 1 人法人で養老保険ハーフタックスを使ったが普遍的加入要件を満たさない
代表 1 人のみの法人で養老保険ハーフタックスを契約。税務調査で「特定の役員のみが受益」と判定され、保険料の半分が役員賞与扱い → 損金不算入 + 個人側で給与所得課税の二重不利益。社内規程の整備と、加入対象の合理性の文書化が必須。
まとめ
- 2019 年通達改正で 全損保険は消滅、最高解約返戻率に応じた 4 区分の損金算入ルールに
- マイクロ法人で使える現役スキーム:返戻率 50% 以下の定期保険、養老保険ハーフタックス、逓増定期(部分損金)
- 解約返戻金は 全額益金 → 役員退職金との相殺が王道出口
- 養老保険ハーフタックスは 普遍的加入要件 に注意、社内規程と合理性の文書化が必須
- 個別商品選定や損金算入処理の判定は 税理士マッチング比較 から保険・税務両方に強い専門家に相談を