結論から先に:この記事の要点
- 売上 500 / 800 / 1,000 / 1,500 / 2,000 万円の各帯で 個人事業 vs 法人 の手取り比較
- 法人化の損益分岐点(家族構成別 3 パターン)
- 業種別経費率 で見直した実勢シナリオ(IT / 物販 / コンサル)
- 「役員報酬 月 96 万円」マイクロ法人モデルの詳細
- 売上帯ごとの「やるべきこと」アクションリスト
- 試算結果と実際の納税額がズレる典型理由 5 つ
- FAQ:配偶者役員額・二刀流・退職金準備・業種変動など
当記事は国税庁・厚生労働省・全国健康保険協会の公式情報をベースとした 2026 年度モデル試算です。実際の納税額は経費・控除・地域差により変動します。詳細試算は 本サイトのシミュレーター または税理士にご確認ください。
なぜ「売上いくらから」が問われるのか
法人化は 設立費 25 万円 + 維持費 年 30〜50 万円 がかかるため、節税効果がこのコストを超えないと法人化メリットが出ません。 さらに、消費税課税事業者化(売上 1,000 万円超)の繰り延べ、社会保険加入による年金最適化、配偶者役員による所得分散と、売上帯ごとに法人化の意味が変わります。
「売上いくらから」を考える際は、手取り増 vs 維持費 + 心理的負担のシンプルな天秤で判断するのが本記事の立場です。
試算の前提
| 項目 | 値 | 根拠 |
|---|---|---|
| 経費率 | 売上の 30% | IT・受託開発業の中央値(後述で業種別補正あり) |
| 役員報酬(法人化ケース) | 課税所得が均等になるよう設定 | 法人税法 第 34 条 定期同額給与 |
| 配偶者控除 | あり(個人事業ケースのみ) | 所得税法 第 83 条 |
| 居住地 | 東京都 23 区 | 住民税・国保料率・均等割 |
| 業種 | 個人事業税 5% 課税業種 | 都税事務所基準 |
| 法人形態 | 合同会社、設立 3 年目以降を想定 | 消費税免税期間終了後 |
| 社保料率 | 協会けんぽ 東京都 2026 年度 | 全国健康保険協会公表値 |
実際の手取りは個別事情で差が出るため、あくまで 比較の傾向値 として読んでください。
売上 500 万円: 個人事業圧勝
| 項目 | 個人事業 | 法人化 |
|---|---|---|
| 売上 | 500 万円 | 500 万円 |
| 経費 | 150 万円 | 150 万円 |
| 課税所得(個人) | 350 万円 | 役員報酬 150 万円受取 |
| 所得税・住民税 | 約 35 万円 | 約 5 万円 |
| 国保・国民年金 / 社保(個人負担分) | 約 65 万円 | 約 22 万円 |
| 個人事業税 | 約 6 万円 | - |
| 法人税・住民税 | - | 約 30 万円 |
| 法人均等割(赤字でも発生) | - | 7 万円 |
| 法人維持費(税理士+ソフト) | - | 約 40 万円 |
| 個人手取り | 約 244 万円 | 約 123 万円 |
法人化すると −120 万円。明確に損。 役員報酬を低く設定して内部留保を増やしても、設立費 + 維持費が利益を食う。 このゾーンでは 青色申告 65 万円控除(所得税法 第 143 条) + 小規模企業共済(年 84 万円控除) で個人事業のまま節税する方が圧倒的に有利。
売上 800 万円: 個人事業有利(社保最適化スキーム例外あり)
| 項目 | 個人事業 | 法人化 |
|---|---|---|
| 課税所得帯 | 約 560 万円 | 個人 + 法人で分散 |
| 個人手取り(試算) | 約 380 万円 | 約 350 万円 |
差は縮まるが、まだ個人事業有利。維持費(30〜50 万円/年)が重い。 青色申告 65 万円控除 + 小規模企業共済 で個人事業のまま節税する方が合理的。
例外:社保最適化だけ狙うマイクロ法人スキーム
ただし、売上 800 万円でも 国民健康保険料が高い 30〜40 代の単身者 は、マイクロ法人化で社保最低水準(役員報酬 月 8 万円)を取る方が手取りが増える場合があります。
- 国保料:年 80 万円超になることが多い(東京 23 区、課税所得 500 万円台)
- 協会けんぽ:役員報酬 月 8 万円なら社保料 年 29 万円(本人 + 会社合算)
- 差額 50 万円 > 法人維持費 40 万円 → 社保最適化目的での法人化が成立
このパターンは 「個人事業 + マイクロ法人の二刀流」 で、個人事業側で稼ぎつつ、法人で社保最低水準を取るのが定石。
売上 1,000 万円: ボーダーライン
| 項目 | 個人事業 | 法人化 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,000 万円 | 1,000 万円 |
| 経費 | 300 万円 | 300 万円 |
| 役員報酬 | - | 400 万円(労使合計の社保負担を考慮) |
| 個人手取り | 約 460 万円 | 約 470 万円 |
ほぼ拮抗。消費税の観点(消費税法 第 9 条による 2 年免税リセット) を考慮すると法人化に傾く。 ただし B2B 中心でインボイス登録必須の事業者は、消費税メリットがほぼ消えるため、判断は他の軸で行います。
売上 1,500 万円: 法人化有利
| 項目 | 個人事業 | 法人化 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,500 万円 | 1,500 万円 |
| 経費 | 450 万円 | 450 万円 |
| 役員報酬 | - | 700 万円 |
| 法人留保 | - | 約 200 万円(内部留保) |
| 個人手取り | 約 660 万円 | 約 730 万円 |
法人化有利が +70 万円。配偶者役員も加えれば更に差が広がる。 内部留保 200 万円は将来の役員退職金・経営セーフティ共済原資として運用可能。
売上 2,000 万円: 法人化大幅有利
| 項目 | 個人事業 | 法人化 |
|---|---|---|
| 売上 | 2,000 万円 | 2,000 万円 |
| 経費 | 600 万円 | 600 万円 |
| 役員報酬 | - | 役員 800 万円 + 配偶者 400 万円 |
| 個人手取り(合計) | 約 850 万円 | 約 1,000 万円 |
+150 万円 の差。配偶者役員報酬による所得分散効果が大きい。 退職金準備・経営セーフティ共済を組み合わせれば更に拡大可能。
業種別経費率で見直したシナリオ
経費率 30% は IT・受託開発の中央値。業種により大きくズレるため、自分の業種で補正するのが現実的です。
| 業種 | 経費率の目安 | 法人化分岐点(売上) |
|---|---|---|
| Web エンジニア・デザイナー(受託) | 20〜30% | 1,000〜1,200 万円 |
| ライター・編集者 | 15〜25% | 900〜1,100 万円 |
| ITコンサルタント | 15〜20% | 900〜1,100 万円 |
| EC・物販 | 50〜70% | 1,800〜2,500 万円 |
| 飲食店 | 50〜70% | 1,800〜2,500 万円 |
| 不動産仲介 | 30〜40% | 1,200〜1,500 万円 |
経費率が高い業種(物販・飲食)は 売上に対する課税所得割合が低い ため、同じ売上でも法人化の損益分岐点が高くなります。
「役員報酬 月 96 万円」マイクロ法人モデル
マイクロ法人の定石として、役員報酬を年 96 万円(月 8 万円)に設定 して社保最低水準で加入するパターンがあります。
この設定の意図
- 協会けんぽ・厚生年金の 標準報酬月額の最低クラス(5.8 万円) で加入できる
- 社保料が年 29 万円(本人 + 会社合算)に抑えられる
- 国保 + 国民年金(年 80 万円超)と比べて 年 50 万円の差
- 残りの利益は法人内に留保し、退職金や経営セーフティ共済の原資にする
適用の前提
- 個人事業を別途営んでいる(生活費は個人事業側で稼ぐ)
- 法人事業は社保を取るための受け皿
- 個人事業 + マイクロ法人の 二刀流 が前提
このスキームは「マイクロ法人 = 社保最適化のための器」という捉え方で、節税効果の上限が高くなります。
損益分岐点
試算の前提によりますが、おおむね:
- 単身者: 売上 1,000〜1,200 万円 / 課税所得 700〜800 万円
- 配偶者扶養あり: 売上 1,200〜1,500 万円 / 課税所得 800〜1,000 万円(配偶者役員可能なら下がる)
- 配偶者役員可(共働き法人): 売上 800〜1,000 万円 / 課税所得 600〜700 万円
- 社保最適化目的(マイクロ法人 + 個人事業二刀流): 売上 600 万円〜(法人 + 個人事業の合算)
「自分の状況」を 本サイトのシミュレーター で個別試算するのが正確。
売上帯ごとの「やるべきこと」
| 売上帯 | アクション |
|---|---|
| 〜500 万円 | 個人事業 + 青色申告 65 万円控除を確実に取る、iDeCo 開始 |
| 500〜800 万円 | 小規模企業共済(月 1〜7 万)・iDeCo(月 6.8 万)で節税幅拡大 |
| 800〜1,000 万円 | 法人化シミュレーション開始、社保最適化型マイクロ法人も検討 |
| 1,000〜1,500 万円 | 法人化を真剣検討、消費税課税事業者化前にアクション、税理士相談 |
| 1,500〜2,000 万円 | 法人化 + 配偶者役員 + 退職金準備(経営セーフティ共済) |
| 2,000 万円〜 | 法人化マスト、税理士相談で複合スキーム最適化、内部留保戦略 |
試算結果と実際の納税額がズレる典型理由 5 つ
シミュレーターの結果と実際の納税額が違うことはよくあります。主な理由:
1. 経費率の見誤り
「だいたい売上の 30%」と答えても、実際は 15% だったり 50% だったりすることが多い。 特に 減価償却・地代家賃・通信費 の扱いで差が出ます。
2. 各種控除の漏れ
iDeCo、小規模企業共済、生命保険料控除、ふるさと納税、医療費控除など、シミュレーターが対応していない控除が実際は適用される。
3. 配偶者の所得状況
配偶者控除・配偶者特別控除は配偶者の所得次第で段階的に減額されます。シミュレーターはこの段階性を簡略化していることが多い。
4. 住民税の地域差
均等割や所得割の率は自治体ごとに微差があり、東京都 23 区基準と地方では年数千円〜数万円の差。
5. 法人税の各種税額控除
中小企業投資促進税制・所得拡大促進税制・研究開発税制など、適用すれば税額が下がる仕組みが多数。シミュレーターは通常これらを反映しません。
正確な試算は税理士に依頼するのが確実です。
FAQ
Q1. なぜ売上 1,000 万円が分岐点と言われるのに 800 万円でも法人化が有利な人がいる?
A. 国保料が高い地域・年齢層(30〜40 代単身者の東京 23 区)では、社保最適化目的のマイクロ法人化が成立するためです。 分岐点は「節税」ではなく「社保料節約」の観点で下がります。
Q2. 配偶者役員報酬はいくら払うのが最適?
A. 年 100 万円前後 が定石。給与所得控除 55 万円で配偶者の課税所得は 45 万円となり、所得税はほぼゼロ。 社保扶養(年 130 万円未満)も維持できる。配偶者の所得税・住民税が発生しない最適水準です。
Q3. 法人と個人事業の二刀流のメリット・限界は?
A. メリット:個人事業で青色申告 65 万円控除、法人で社保最適化、両方の節税効果を取れる。 限界:両者の事業内容を 明確に分離する必要があり、混同すると税務署から否認されるリスク。 税理士相談が事実上必須です。
Q4. 試算で 50 万円差なら法人化すべき?
A. 微妙です。法人化には 経理・税務の手間が年 30〜50 時間分増える(決算書作成、源泉徴収、社保手続き等)。 時給換算で 50 万円が手間に見合うかで判断します。税理士丸投げするなら手間は減りますが、税理士費用も増えます。
Q5. 退職金準備(小規模企業共済 / 経営セーフティ共済)の影響は?
A. 個人事業時代は 小規模企業共済(月 1〜7 万円、全額所得控除) が使えます。 法人化後は 経営セーフティ共済(月 5,000〜20 万円、全額損金算入) が追加で使えるようになり、節税枠が大幅拡大。 両制度の併用で年最大 324 万円の所得控除が可能になります。
Q6. 売上が変動する業種の判断方法は?
A. 過去 3 年の売上平均と将来 3 年の見通し平均で判断します。 変動が大きい場合(例:年 500 万円〜2,000 万円)、平均値より 下振れ年が法人維持費を回収できるか を重視。下振れ時に維持費負けするなら法人化リスク大。
Q7. 確定申告と法人決算の手間の差は?
A. 個人事業の確定申告は 会計ソフトで 1〜3 日、法人決算は 会計ソフト + 税務申告ソフトで 5〜10 日(税理士なし自力の場合)。 税理士に依頼すれば手間は減りますが、年 15〜30 万円の費用が発生。
次に読むと理解が深まる記事
- 法人化シミュレーター:自分の数字で損益分岐点を即時試算
- 法人化のタイミング判断 5 基準:売上以外の判断軸
- 法人化のメリット・デメリット:金銭面以外の影響も含めて整理
- マイクロ法人と中小企業の違い:マイクロ法人の定義と税制特例
まとめ:今日のポイント
- 売上 500 万円なら個人事業圧勝、1,500 万円なら法人化圧勝
- ボーダーラインは 売上 1,000〜1,200 万円(家族構成・業種で変動)
- 業種別経費率 で補正:物販・飲食は 1,800 万円超、IT 系は 1,000 万円から有利
- 社保最適化型マイクロ法人なら売上 600 万円台でも法人化メリットあり
- 配偶者役員報酬が使えれば損益分岐点は下がる
- 自分の数字で正確に試算するなら シミュレーター を活用