この記事で分かること
- 役員報酬と配当の 課税構造の違い(給与所得控除 vs 配当控除、社保あり vs なし)
- 法人税法 第 34 条(定期同額給与)の縛りと、配当が損金不算入である理由
- 配当課税の 2 ルート(総合課税 + 配当控除 / 申告分離課税)の選び方
- 売上 800 / 1,200 / 1,800 万円帯での 役員報酬 100% / 報酬 + 配当ミックス の手取り比較
- マイクロ法人で配当中心にする時の 税務上のリスク(同族会社の留保金課税・名義配当の否認)
- FAQ 5 問(配当の支払時期・源泉・社会保険・株主総会議事録 等)
当記事は法人税法・所得税法・国税庁タックスアンサー(No.1330 配当所得 / No.5759 法人税率)に基づくリサーチ解説です。実際の有利不利は個別事情で変動するため、最終判断は税理士にご確認ください。
役員報酬と配当は「課税ルートが完全に別物」
法人で得た利益を個人に移す方法は大きく 2 つあります。
- 役員報酬:法人の損金(経費)になる → 個人側で「給与所得」として課税 → 社会保険料の対象
- 配当:法人税課税後の利益から支払う(損金不算入)→ 個人側で「配当所得」として課税 → 社会保険料の対象外
役員報酬は法人税法 第 34 条の定期同額給与・事前確定届出給与等の要件を満たさないと損金に算入できません。一方、配当は 法人税を払い切った後の利益剰余金から払うため、法人段階で 1 回、個人段階で 1 回の二重課税構造になります。
この「二重課税」を緩和するために設けられているのが 配当控除(所得税法 第 92 条)です。配当所得の最大 10% を所得税額から控除できます(課税所得 1,000 万円超部分は 5%)。
配当課税の 2 ルート
上場株式以外(=自社株配当)は基本的に 総合課税のみですが、所得金額や家族構成によって有利不利が変わります。
| 区分 | 税率 | 配当控除 | 社会保険 |
|---|---|---|---|
| 給与所得(役員報酬) | 5〜45% 累進+住民税 10% | なし | 対象(労使合計 約 30%) |
| 配当所得(総合課税) | 5〜45% 累進+住民税 10% | あり(最大 10%) | 対象外 |
| 配当所得(申告分離) | 一律 20.315% | なし | 対象外(※非上場は原則不可) |
非上場会社の配当は 原則として総合課税(10 万円以下の少額配当は確定申告不要を選択可)。マイクロ法人で「配当ミックス」を語る場合、税率は累進で計算する必要があります。
社会保険料が分岐点
マイクロ法人の最大の固定費は 社会保険料(協会けんぽ + 厚生年金で報酬月額の約 30%、労使折半なので個人負担は約 15%、ただし法人負担分も実質オーナーが払う)。
役員報酬 600 万円なら社保コストは法人・個人合算で 年 180 万円前後。一方、同じ 600 万円を配当で受け取れば社保はゼロ。
ただし注意点:
- 役員報酬を ゼロ or 月 5 万円程度まで下げると社会保険の被保険者から外れる場合がある(要件は日本年金機構の通達による。常勤性・労務実態で判断)
- 国民健康保険・国民年金に切り替わると、扶養家族構成によっては割高になることもある
- 健康保険の傷病手当金・出産手当金が使えなくなる
売上帯別シミュレーション
法人税実効税率 25%、給与所得控除・社保コスト概算で試算。配当は総合課税+配当控除前提。
売上 800 万円・法人利益 500 万円帯
- 役員報酬 100%(500 万円):給与所得控除 144 万円、社保約 145 万円、所得税住民税約 20 万円 → 手取り 約 335 万円
- 役員報酬 0 + 配当 500 万円:法人税 125 万円 → 配当原資 375 万円。総合課税で所得税住民税約 45 万円、配当控除 37.5 万円 → 手取り 約 367 万円
→ 配当中心が約 30 万円有利。社保負担を回避できる効果が大きい所得帯。
売上 1,200 万円・法人利益 900 万円帯
- 役員報酬 100%(900 万円):給与所得控除 195 万円、社保約 230 万円、所得税住民税約 95 万円 → 手取り 約 575 万円
- 役員報酬 200 + 配当 700 万円:法人税 175 万円。役員報酬 200 万円分の損金で法人税圧縮済。社保最低限 35 万円 + 給与分税 5 万円 + 配当税 130 万円 - 配当控除 70 万円 → 手取り 約 660 万円
→ ミックス型が約 85 万円有利。
売上 1,800 万円・法人利益 1,400 万円帯
ここは配当所得が累進の高い層(33〜40%)に乗り、配当控除(5%)が薄くなる帯。
- 役員報酬 100%(1,400 万円):給与控除 195 万円、社保約 250 万円、所得税住民税約 280 万円 → 手取り 約 870 万円
- 役員報酬 800 + 配当 600 万円:給与の社保 240 万円 + 給与税 100 万円 + 配当税 180 万円 - 配当控除 30 万円 → 手取り 約 950 万円
→ ミックス型が約 80 万円有利。役員報酬は給与所得控除と退職金原資のため一定額残すのが定石。
マイクロ法人で配当を出す時の落とし穴
1. 同族会社の留保金課税(法人税法 第 67 条)
特定同族会社(被支配会社のうち資本金 1 億円超 or 一定要件)が利益を社内留保すると、留保金額に応じて 特別税率(10〜20%)が課されます。資本金 1 億円以下のマイクロ法人は原則対象外ですが、配当を出さずに利益を溜め込み続けて資本金を増資すると将来該当する可能性あり。
2. 配当を「役員報酬の代替」と見なされるリスク
実質的に労務の対価を配当で支払っていると、税務調査で 役員給与認定(=損金算入されていない給与を給与所得課税)されるリスクがあります。配当は 株主の持株比率に応じた利益分配であるべきで、特定の役員に偏った配当を毎期出すと否認の余地が生じます。
3. 株主総会議事録・配当決議が必須
配当を出すには 定時株主総会の決議(会社法 第 454 条)と議事録、源泉徴収(20.42%)、支払調書(配当 5 万円超で税務署提出)が必要。「内部留保から自分の口座に振り込めば OK」ではないので、会計事務所と連携した手続きが必須です。
4. 給与所得控除と退職金原資はゼロにできない
役員報酬を完全にゼロにすると、給与所得控除(最低 55 万円)を捨てることになり、退職所得控除の勤続年数も累積しません。 最低でも月 8〜10 万円の役員報酬を残すのが実務上の定石です。
FAQ
Q1. 配当はいつでも出せる? A. 原則は 決算後の定時株主総会で決議し配当(会社法 第 453 条)。臨時株主総会で中間配当も可能だが定款の定めが必要。
Q2. 配当に源泉徴収はかかる? A. かかります。非上場の配当は 20.42%(所得税 20% + 復興特別所得税 0.42%)の源泉徴収義務(所得税法 第 181 条)。法人が支払時に天引きし翌月 10 日までに納付。
Q3. 配当だけだと社保に加入できない? A. 役員報酬がゼロ or 著しく低額(労務実態と比較して)の場合、健康保険・厚生年金の被保険者資格を喪失し国保・国民年金に切り替わります。傷病手当金等の保障が使えなくなる点に注意。
Q4. 申告分離課税は使えない? A. 非上場株式の配当は 原則総合課税のみ。申告分離(20.315%)が使えるのは上場株式等の配当。マイクロ法人の自社配当には適用不可。
Q5. 家族に株を持たせて配当を分散できる? A. 可能ですが、贈与税の問題(株式評価額が高いと贈与税課税)、名義配当として否認されるリスク、相続時の事業承継問題などを総合的に検討する必要があります。設立時に持株比率を設計するのが理想です。
役員報酬と配当のミックス比率は売上帯・家族構成・社保負担許容度で大きく変わります。個別判断は税理士マッチング比較から法人税務に強い専門家を探して相談するのが安全です。